その犬の歴史

番犬として

「その子はその子なりに頑張ってはいたんだけどね」とおばちゃんは言った。

農泊の体験でお邪魔した農家さんの軒先に、この犬の置物があった。
耳が片方無くなり、もう片方にはブルーシートが引っかかり、破れていた。
この地域にはアライグマと狐がよく出て、ハウスの中のイチゴなども食い荒らされて困っていたそうだ。

そんなときにおばちゃんの家に来たのがこの犬で、この子はただの置物じゃなく、「夜に何かが近づくと吠えて威嚇する」という、それはそれは犬っぽい機能を持ち合わせるスーパードッグだったのだ。

初日。
夜中にこの犬が吠える音が聞こえ、翌朝農作物をチェックすると被害はゼロ。
やった、やったよ、この子ったら天才ねとおばちゃんは歓喜したらしいけど、2日目はずっとこの子が吠え続け、農作物は食い荒らされていた。

そして3日目、玄関先がうるさいなと夜中に窓から見てみたら、アライグマがこの犬の上に乗って耳を食いちぎっていたそうだ。

それがこの子の歴史の全てだ。
今は静かに目の前を通り過ぎて行く、生きた動物たちを真っ直ぐに見つめている。